2005年12月8日木曜日

真打ちの誘拐物 - 連城三紀彦「人間動物園」

 今日も気温的には昨日と同じくらいでしたが、昼休みのコ-ト上はだいぶ暖かく感じました。身体が冬仕様になってきたのでしょうか。

 もしかしたら「過去の人」とされているのかもしれませんが、連城三紀彦は自分にとって、泡坂妻夫、島田荘司、笠井潔など他の黄金世代の巨人と同様、100%信頼して読める、本格マインド溢れる作家です。まあ、人によっては恋愛小説家だと思っているかもしれませんけれど。

 誘拐ものの秀作が輩出した'90年前後から少し時を置いて、彼が誘拐ものに手を染めたということで、ちょっと前に話題になった作品が文庫化され、もう古本屋に並んでいました。

人間動物園 連城三紀彦
 満を持して(?)発表した誘拐ものだけに、さすがとしか言い様の無い、考え抜かれた斬新なプロットでした。推理物では犯人側と捜査側の読み合いとは別に、読者のヨミとそれを外す筆者との化かし合いがあると思いますが、こちらの予見する手は次から次へと明かされてしまい、なかなか底が割れない展開は見事です。二、三、偶然に頼った部分が少し気になりますが、それに関してもちゃんと言及しているあたりもさすがです。ただ、内包するテーマを余り重くしないようにする配慮からか、はたまたカーの様に伏線を見落とさせるためなのか、敢えてドタバタ調にしていますが、なりきっていないところが少し微妙な気がしました。よりドタバタに徹するか(それはダメか…)、若しくはシリアス調にすれば、過去の代表作に迫れたのではないかと思います。

 初出の雑誌連載は1995年とのことですが、印象的なエピローグ、最後のくだりも、アメリカの同時多発テロの前に書かれているのだとしたら暗示的です。

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